コーヒーを通じて「Do well by doing good.」 /イパネマ農園・宮川直也さん(前編) 【特集企画】世界が取り組むウェルライフって?
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コーヒーを通じて「Do well by doing good.」 /イパネマ農園・宮川直也さん(前編)

日本でもコーヒーは日常生活に馴染みのある飲み物になっていますが、ブラジルが世界の主要なコーヒー豆の産地であることは知っていても、そのコーヒー豆が誰によって、どのように作られているのかをご存知の方は少ないのではないでしょうか。

宮川直也さんは、コーヒー大国ブラジルでも最大級の農園であり、50年の歴史を持つイパネマ農園で長年コーヒーづくりに携わってこられました。今回はそんな宮川さんにイパネマ農園の様子やこれまでのご経験、コーヒーづくりに賭ける思いなどをお聞きしました。

コーヒー農園一筋30

DOWELL編集部: まず最初に、宮川さんは普段イパネマ農園でどのようなお仕事をされていらっしゃるのかお聞かせください。

宮川さん: 私は農園の役員という立場ですので、日々のオペレーションに直接携わるということはないんですけど、管理者という立場から農園運営に関わる様々な業務をしています。

例えば普段は経営に関する数字をチェック、分析していますが、僕はコーヒーづくりに携わって30年以上が経ちますので、そういう仕事よりも本当は実際に畑に行ってコーヒー豆の木の状態を見たりするほうが好きなのです。ですから、暇があれば事務所を飛び出して農園へ足を運んでいます。

DOWELL編集部: 農園には毎日行かれるのですか?

宮川さん:ええ、毎日必ず出ています。何しろ事務所が農園の中にあって、一歩外に出ると目の前にコーヒー農園が広がっている、そんな職場環境ですね。

DOWELL編集部: 緑に囲まれているイメージが湧きます。ブラジルに20年ぐらいいらっしゃるとお聞きしました。

宮川さん: ええ、コーヒーづくりを始めて30年以上になりますが、ブラジルには通算で20年以上いるでしょうね。

イパネマ農園の面積は山手線の内側ほど

DOWELL編集部: 宮川さんが普段から過ごされているブラジルの自然についてもお伺いします。イパネマ農園は山手線の内側くらいの面積で、山岳地帯もあったりして自然豊かな場所だそうですね。

宮川さん: そうなんです。イパネマ農園は総面積が6,100ヘクタールありますから、確かに今言われたように山手線の内側とほぼ同じくらいですね。実はこの6,100ヘクタールの農園は、3つの生産ユニットに分かれて点在していて、地続きの6,100ヘクタールではないんですよ。

この3つの生産ユニットの1つにリオベルジユニットという地域があって、そこは標高が平均で1,000メートル、高いところでは1,350メートルくらいまで達するような山岳地帯でもコーヒー豆を作っているのです。

DOWELL編集部: そんな高いところでもコーヒー豆ができるのですか?

宮川さん: 実はコーヒー豆は、標高が高いほうが品質的にはいいコーヒーが採れると言われているのです。日中は暑くて夜は涼しいという温度変化によって、コーヒーの実がじっくり成長するので、コーヒー豆の重要な要素である糖分がたくさん蓄えられるようになるからなんですよ。

(左)Mr. Christiano Borges(CEO:イパネマ農園)、(右)Mr. Glauco Prado(Commercial Manager:イパネマ農園)

おいしいコーヒーを作るためのこだわり

DOWELL編集部: イパネマ農園は、生産されたコーヒー豆に関して輝かしい受賞歴をお持ちですので、コーヒー豆の生産方法についてもいろいろな工夫をされているのではないでしょうか? イパネマ農園のこだわりをお聞かせください。

宮川さん: イパネマ農園は創業50周年になりますが、プレミアムコーヒーとかスペシャリティーコーヒーがまだ珍しかった50年前から、いずれはそういう時代が来るのではないかということで、スペシャリティーコーヒーの生産に力を入れてきました。

特に私たちがこだわっているのは「from Seeds to Cup」をモットーに、例えば農園に植えるコーヒーの木の苗も、自分たちのコーヒー農園から採れたチェリーの中に入っている種を苗床に植えて自分たちの手で作って、それを畑に植えています。

これにはこだわりがありまして、コーヒーの苗木業者から苗木を買ってきますと、どういう品質のコーヒーなのかが分かりませんし、あるいは、買った苗木の土に病気の菌や害虫がついているリスクもあります。ですから、そうしたリスクを避けるために自分たちの農園から取った土に自分たちのコーヒーの種を植えて苗木を作るというこだわりを持っています。

そして、収穫したコーヒーも全て自社農園内の精製設備で加工するなど、イパネマ農園では、あらゆる面でこだわりを持ってコーヒーづくりに励んでいます。

DOWELL編集部: まさに手づくりで工夫を凝らしてといったところですね。

自然保護への取り組み

DOWELL編集部: 次に、農園のサスティナブルな施策についてお伺いします。社会的な活動として「Grow more with less」、自然や人への影響を最小限に抑えて持続可能な運営をするという考え方を大切にしている農園だとお聞きしていますが、その考え方についてお話いただけますか。

宮川さん: イパネマ農園は、自然環境などに配慮した生産者に与えられる認証をいち早く取得しています。単にモノを作るだけではなくて、その周りの環境保全に取り組むこともコーヒー生産者の責任だということで、ブラジルには、農園内に最低でも総面積の約2割の自然保護区を設けなくてはいけないという法律があり、私たちはそれを順守しています。

さらに、農園内で湧き水が出ている箇所を保護するために周りに在来種の植物を植えなくてはならないという規則もあります。一般的にブラジルには、アマゾンの木を伐採するなど環境を破壊して作物を作っているというイメージがあるかもしれませんが、実はブラジルの環境保護はとても厳しく規制があるのです。皆さんが持たれているイメージと実態は違うかもしれません。

DOWELL編集部: そうなんですか。それは知りませんでした。この記事を読んだ読者の皆さんも意識が変わるのではないでしょうか。

イパネマ農園が本格的に自然保護の取り組みを始めたのはいつ頃からですか?

宮川さん: 各種の認証を取得し始めた、2003年からですね。それ以来、もともとその土地に住んでいた虫とか野鳥とか野生動物がどんどん戻ってきて、農園内で見かけるようになっています。

DOWELL編集部: ブラジルだとどんな野生動物が見られるのでしょうか?

宮川さん; もっとも有名なのがトゥッカーノという、黄色いくちばしを持った野鳥です。私は20年以上ブラジルに住んでいますが、以前は車でコーヒーの産地を回っていてもトゥッカーノを見かける機会はめったにありませんでした。トゥッカーノは動物園で見る鳥だったんですよ。

ところが、イパネマもそうですが、ブラジルの農家が自然に優しい農法を取り入れるようになってから、各地でトゥッカーノを見るようになりました。

DOWELL編集部: トゥッカーノなら写真で見たことがあります。たしかにすごく鮮やかな鳥ですね。

宮川さん: 今では郊外の街道を車で走っていると、頻繁に見ることができますよ。眼の前を飛んでいくのを見ることもあります。

DOWELL編集部: トゥッカーノが農園を飛んでいるところをぜひ一度見てみたいものですね。

イパネマ農園では2004年に生態系を回復・保護するための森林再生プロジェクトである「イペー・アマレーロ」を開始されました。それによって動物の生息数が増えているのだろうと思いますが、昆虫とか他にもいい影響があったのではありませんか?

宮川さん: 「イペー・アマレーロ」は、ブラジルの自然保護の決まりを遵守すべく、イパネマが独自で始めたプログラムですが、自然保護法では、農園内に保護区を決めたら、そこに原生林を再生させなくてはならないことになっています。それも、外来種ではなくて、その地域の在来種を植え、もともとあった生態系を再生しなさいというルールがあります。例えば保護区を作ったので、そこに日本から持ってきたサクラを植えたいと思ってもそういうわけにはいきません。そこにちゃんとあった在来種を植えて生態系を取り戻して、生物連鎖を生むというのが目的なんですから。

労働者の働く環境を整える取り組み

DOWELL編集部: 今、農園の環境保全についてのお話を伺いましたが、地域社会との共生を大切にしているということで「イパネマ インスティテュート」という労働者の働く環境を整える取り組みもなさっていますね。こちらについてもお聞かせください。

宮川さん: イパネマ農園には約650人の従業員がいて、その大半がフィールドワーカーです。その従業員のお子さんを学校が終わった後に預かるような施設を作ってサポートしようじゃないかというので始めたのが「イパネマ インスティテュート」です。現在では従業員のお子さんだけではなく、イパネマ農園がベースにしているアルフェナスの子供たちにも施設を開放して、補習やインターネットの講習、スポーツを楽しむ機会を与えています。

DOWELL編集部: イパネマ農園では、かなり以前から教育の機会についてサポートされているようですね?

宮川さん: ブラジルのような発展途上国ですと、お子さんを1人で家に置いておくというのはなかなか難しい問題なんです。ですから、イパネマ インスティテュートで預かって教育をして、その子の将来のために役立ててもらうという取り組みを提供しているのです。

DOWELL編集部: 麻薬中毒、アルコール中毒の人の復帰支援もされているということですが、ブラジルという国は社会的にまだいろいろと問題があったりするのでしょうか?

宮川さん: ブラジルでは貧富の差も激しくて、苦しい毎日の生活から逃れようとしてお酒や薬に走ってしまう人が多いんですね。違法な薬が意外と簡単に手に入ってしまうという日本ではなかなか考えられないこともあって。社会復帰を少しでもお手伝いしようというわけですね。

DOWELL編集部: 先ほど湧き水の話題が出ましたが、コーヒーの栽培には、雨とか気温がとても重要だという話を聞いています。そこで、イパネマ農園では水質保全や農園内での水の節約、循環といったリサイクルシステムをどうされているのか、その辺をお聞かせください。

宮川さん: 農業をやっていく上で水は必要不可欠な要素です。一方で水は有限な資源なので、無駄遣いはしないようにというのが私たちの基本的な考え方です。

イパネマ農園では生産区画の約半分に灌漑設備を設置してありますが、その灌漑方式は「ドリップ方式」といってコーヒーが育っている木の根元にホースを敷いて、そのホースに穴を開けて一滴一滴、水が土中に落ちていくようにしたものです。これによってポイントポイントに水を与えることができて、無駄な水の使用を抑えることができます。

さらには、水と一緒に肥料なども混ぜることができるので、今まで肥料をまくには労働者がトラクターで農園中を回らなければなりませんでしたが、ドリップ方式ならそれ1つで済みます。作業の効率性も上がりました。

それともう1つ、コーヒー農園では、収穫されたコーヒーを精製する時に水洗いするのですが、それによって発生する使用後の汚水を自然に戻す際、ある期間タンクに入れておき、浄化してから畑に戻すといった工夫もしています。

DOWELL編集部: それはとても大きなシステムですね。イパネマ農園では技術支援もしているのでしょうか?

宮川さん: はい、やっています。イパネマ農園はブラジル最大級のコーヒー農園で、歴史も50年ありますので、さまざまなコーヒー栽培に関するノウハウを蓄積しています。優秀な農業技術者のスタッフもいて、イパネマ農園と提携している周辺の農家に技術指導したり、コーヒー生産者をサポートするという関係も築いています。

(後編に続く)

コーヒーを通じて「Do well by doing good.」 /イパネマ農園・宮川直也さん(後編)

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