アフリカの雄大な自然からインスピレーションを受けたデザイン/ andu amet(アンドゥアメット)・鮫島弘子さん(前編) 【Cover Story】 世界が取り組むウェルライフって?
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アフリカの雄大な自然からインスピレーションを受けたデザイン/ andu amet(アンドゥアメット)・鮫島弘子さん(前編)

絹のようなしなやかさと羽のような軽さがありながら、丈夫さも併せ持った世界最高峰の羊皮「エチオピアシープスキン」を使ったラグジュアリーなレザーブランド、「アンドゥアメット」。アフリカの雄大な自然にインスピレーションを受けたという独創性の高いオシャレなデザイン、そして、触れた瞬間幸せになってしまう極上の感触に魅せられている人も多いことでしょう。

今回はそのアンドゥアメットを立ち上げた鮫島弘子さんに起業からここまでの歩みや今後の夢などについて伺いました。

アンドゥアメットの由来

DOWELL編集部: まずアンドゥアメットというブランドネームの由来についてお聞かせください。

鮫島さん: アンドゥアメットというのはエチオピアの言語であるアムハラ語で「ひととせ(一年)」という意味です。革製品は、使っているうちにだんだんと味が出て、よくなってくるものです。新品よりも1年後、1年後よりも2年後が美しくなります。一年一年を大切に長く使っていただきながら共に時を積み重ねて、嬉しい時も悲しい時も、大切な家族やパートナーのようにいつもそばに寄り添ってその人の人生を豊かにしたり、持っているだけで安心させたり、そんな製品を作りたい。そんな思いでこの名前をつけました。「モノ」そのもの以上に、そのモノと一緒に積み重ねた「時」が大切だと思ったからです。

DOWELL編集部: 製品そのものが素敵なのはもちろんですが、それを手に入れてからの人生が豊かになるようにという想いがとても素晴らしいですね。

鮫島さん: 見た目が格好いいとか流行がどうかということも、もちろん大事です。でも、それよりも私たちはもう少し本質的なことを追求したいと考えています。例えば色にしても元気が出るような色だったり、触ってすごく気持ちがいいとか、五感でお客さんを元気づけたいというか、幸せになってもらえるようなデザインを考えています。

神様からのエチオピアへの贈り物

DOWELL編集部: 触り心地が本当に素敵で、ぎゅっと抱きしめたくなるようなバッグたちですね。

鮫島さん: ありがとうございます。他にはないこの感触がエチオピアシープスキンの最大の特徴です。これはもう、神様からのエチオピアへの贈り物だと思っています。エチオピアという国は、経済的に豊かなわけではありませんが、こういう幸せな気分にさせてくれるようなものがいくつもあり、シープスキンもそのひとつです。

悶々とした日々

DOWELL編集部: 創業されたのはいつのことですか?

鮫島さん: 2012年です。2010年からエチオピアに単身で渡って工房を立ち上げていたのですが、品質的に売れるレベルのものがなかなか作れなくて。2011年の末になってやっと満足できるものが作れるようになり、日本で販売を開始するために会社を設立したのが2012年の2月1日のことでした。

DOWELL編集部: 創業のきっかけについてお聞かせいただけますか。 国際貢献やビジネスにおいて海外に視野を広げたきっかけや、ものづくりやファッションを仕事にした動機についてもお聞かせください。

 鮫島さん: もともとは新卒で化粧品メーカーに就職し、デザイナーとして働いていました。プロダクトから販促物のデザインまで全部担当させてもらえるポジションで、化粧品もファッションも美容も好きでしたので、最初は楽しく仕事をしていました。自分が作ったものが世の中に出て、お客様がそれを手に取って買ってくれるというのは嬉しかったですね。

しかし、当時はちょうど時代がファストファッション化していったタイミングでした。私が入社した年に全ての製品が中国製に切り替わり、それまでは年に2回だった新商品の発売が年に4回、6回と増えていったんです。

DOWELL編集部: 工場が賃金の安い海外に移っていったということですか?

鮫島さん: はい、そうです。その頃、世の中にはまだファストファッションという言葉は一般的ではありませんでしたが、間違いなくファスト化していっていました。それまで1年、2年かけていたものづくりがどんどん短納期になり、デザイナーも生産者も毎日夜遅くまで働くことになって、でもそうやって作られたものが3か月後には古い色にもなってしまう。新しい商品をどんどん買わせるために、前回買っていただいたものはもう型遅れですよ、トレンドはこの新色ですよと耳元で囁くような、そういうマーケティングが当たり前になってきたんです。

展示会に行くと広い会場中が新製品で埋め尽くされていて、半年後の展示会に行くと、それが全部入れ替わっていて、今までのものはどこかに行っちゃっていました。

そうしたやり方に次第に疑問を覚えるようになりました。何か変だな、確かに今やっている仕事は楽しいけれど、これは一生やる仕事なのかなと思うようになってきたのです。

同年代の友人の中には、医師になった人もいれば弁護士になろうと勉強している人もいました。彼らは社会のために何かしようとしているのに、自分は半年後には捨てられてしまうものを毎日作り続けている。そこに疑問を感じたところでした。デザインという仕事自体は好きで辞めたくないし、これからどうしたらいいんだろうと悶々としながら、本を読んだり、色々な人に会って話を聞いたりする中で、途上国に、デザイン分野で活躍できるボランティアがあるということを知りました。

友人たちと開催したファッションショーが契機に

DOWELL編集部: デザインスキルを活かせるボランティア活動とは、具体的にはどのようなことをされていたのですか?

鮫島さん: 現地の工芸センターのデザイン室でした。そこで扱っていたい工芸品のデザインをより洗練させて、外国人観光客にもっと買ってもらい、外貨を自助努力で獲得できるようにしようというミッションでした。

ただ、実際に行ってみると、そこは「援助漬け」といわれるような組織でした。今までの仕事に疑問を感じ、ボランティアを志して現地に行きましたが、今度はそこで援助の現実を見てしまって、また壁にぶちあたってしまったんです。

結局、私がここで働けば働くほど、現地の人をスポイルしてしまう。どうしたらいいんだろうと考えた結果、そのの組織を抜け出し、街でやる気のある民間の人たちを集め、様々なプロジェクトを進めることにしました。

中でも自分にとって大きな契機となったのは友人たちと開催したファッションショーでした。エチオピアの素材を使い、自分たちでデザインをして、現地の職人さんに仕立ててもらったのですが、準備は困難を極めました。でも最終的に大成功を収めることができて。何より、関わってくれた職人たちに「現地のものや人だけではいいものが作れないと思っていたけど、がんばればこんなにも素晴らしいものができるとわかった。今は、自分たちを誇りに思う」と言ってもらえたのが嬉しかったです。

その後、そのドレスの即売会も実施しましたが、飛ぶように売れました。お客様も世界でたった1つしかないもの、そのファッションショーのためだけに丁寧に何日もかけて作られたものを買うことができたと言ってくれて、喜んで頂けたんです。作る人も、使う人も幸せなものづくり。こういうことが私の求めていたもの、やりたかったことなんじゃないかなと、そこで初めて気が付きました。

DOWELL編集部: その時のお客様は、エチオピアに住んでいる人たちですか?

鮫島さん: はい、そうです。もともと現地のデザインやものづくりに何かインパクトを与えるようなことがやりたいという想いで立ち上げたプロジェクトだったこともあり、ファッションやデザインを勉強する学生さんや、木工や縫製などものづくりに関わる職人さんたちに声をかけたのですが、実際そういう方々にも多数来場してもらうことができました。

DOWELL編集部: 現地の人へのインパクトは大きかったでしょうね。

鮫島さん: 当時の現地の新聞や雑誌にはほとんど掲載され、テレビでも連日放送されたようです在エチオピア大使館からも「日本とエチオピアの友好史上に残る偉大なイベント」と表彰状をいただきました。それまでも外国人富裕層向けのエンターテイメントのショーはあったかもしれませんが、ああいう形のファッションショーはもしかしたら初めてだったかもしれません。

起業を志し、5年間でビジネス感覚を身につけた

DOWELL編集部: これがやりたいという目標が定まってから、実際にビジネスを始められるまでの経緯はいかがでしたか。

鮫島さん: エチオピアでのショーで、現地の人たちの意識が変わっていくのを間近に見て、そこに可能性やおもしろさは感じていましたが、この時はまだ自分がそれをビジネスにするなんて思ってもいませんでした。現地の人たちが心を込めて作ったものが、大量生産のものとは違うものだということには気づきましたが、それで終わっていたのです。

その後、私は同じアフリカのガーナにやはりボランティアとして派遣され、職業訓練校で家政科の教員として働きました。

授業では、現地の特産品だったビーズを使ったジュエリーの作り方なども教えていたのですが、そのうちのいくつかの近所のカフェなどに置いてもらったところ、出来の良いものから少しずつ売れるようになりました。売り上げは作った人に全額お渡しすることにしていたのですが、そうしたら生徒たちが目の色を変えて、授業を真剣に聞くようになったり、遅れずに授業に出席したり、上手に作れる努力を自ら積極的にするようになったのです。

その時に私は、あ、これがビジネスの力なんだ、と気づきました。エチオピアでは援助の難しさに悶々としていましたけど、ガーナで、努力した分が収入になるビジネスの仕組みで生徒たちが変わるのを見て、今のビジネスモデルを思い付いたのです。

すぐに起業しようと思ったのですが、私はデザインしか経験がなかったので、その時は上手くいかなくて。これじゃあダメだと思って。あるブランドのマーケティング部門に就職し、そこで5年間働きながらビジネス感覚を身につけました。

エシカルって、本来は「考える」こと

DOWELL編集部: 鮫島さんの商品はデザインだけではなく、今のお店のプロデュースや販促物のデザインなど、トータルで鮫島さんご自身がディレクションされていますよね。ボランティアでの経験や化粧品メーカー、外資系ブランドで学んだことが活かされているのですね。

鮫島さんがブランドを立ち上げるにあたっての想いはどのようなものだったでしょうか?

鮫島さん: ブランドを立ち上げるからには、長く使ってもらえるもの、憧れられるものを作らないと意味がないという思いがありました。高品質なものを作り、ストーリーとともにしっかりとお届けするブランドにしないとやる意味がないという思いがありました。

DOWELL編集部: 商品の背景のストーリーも大切ですけど、品質も重要ですね。

世の中で使われているエシカルという言葉についてどうお考えですか?

鮫島さん: デザインや品質が悪いものをチャリティだからといって買ってもらっても、結局使われなければ、結局それは資源の無駄遣いになると思います。

エシカルって、本来は「考える」ことなんだと思います。例えば、ファーはエシカルではない、と言われますが、それは思考停止かもしれません。食肉用の家畜の毛を使用したファーもあり、使われなければ、産業廃棄物となってしまうものもあります。そこで当社で問題提起をするためにあえて、食肉の副産物であるファーを使用した商品を2012年に発売しました。

時代や価値観、ライフスタイルがどんどん変わっていくのですから、本来は「エシカル」もどんどんアップデートされていかなければいけない。たしかに、私が起業準備をはじめた10年前と比べると、色々と変わってきてはいますが、欧米はもっと早いスピードでアップデートされています。令和は今よりもっと高いレベルのディスカッションがなされていくようになるといいですね。

DOWELL編集部: エシカルっていう言葉は直訳すれば倫理的という意味ですよね。

それは、状況によっても時代によっても、あるいは地域によっても倫理観は変わるものなのではないでしょうか。

鮫島さん: そうですね。倫理っていうと、どこか説教くさく聞こえてしまうかもしれないけど、未来のために今なにが必要かを皆で考えよう、理想のビジネスモデルを作っていこうってことだと思うんです。未来のモデルだから、すでに決まった回答があるわけではありません。宗教やライフスタイルによって答えも違ってきます。たとえばビーガンの人にとっては、革製品を買わないことがエシカルかもしれない。でも普段からお肉を食べている人にとっては、自分が食べたお肉の副産物である革などの有効活用方法を考えることがエシカルになる。たった1つの正解があるわけではないから一筋縄ではいかないけれど、だからこそそれを考えるのはエキサイティング。今一番必要とされているクリエーションでありイノベーションと言えるかもしれません。

エチオピアの工房で働いている当社の職人の中には、教育を受ける機会に恵まれず文字の読み書きができない人もいます。新聞は読めないけど、ラジオでニュースを聞いていて、仕事中、エチオピアをよくするためにはどうしたらいいかなんてディスカッションを皆でしていたりしますよ。自分の考えを持っているんですよね。

DOWELL編集部: 貧しい環境の国であるとか、恵まれない境遇の人であればあるほど、学校の先生になって、この国をよくしたいと、そんなふうに考える人が多いようですね。

鮫島さん: 確かにエチオピアにはそういう人がたくさんいます。私は教育は門外漢ですが、自分が受けてきた教育を振り返ってみると、ディスカッションしたり考えを深めたり、といったことよりも1つの正解を書くことのほうが重視されていたような気がします。

(後編に続く)

アフリカの雄大な自然からインスピレーションを受けたデザイン/ andu amet(アンドゥアメット)・鮫島弘子さん(後編)

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