激変する未来。ESG思考ってどういうこと? / 『ESG思考』(講談社+α新書)著者・夫馬賢治さん【後編】 【特集企画】僕たちの未来のために。
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激変する未来。ESG思考ってどういうこと? / 『ESG思考』(講談社+α新書)著者・夫馬賢治さん【後編】

「変わることがわかっているのであれば、変化に対応するための布石を打っていかなければならない」と、「ニュー資本主義」と「ESG思考」の重要性を説く、株式会社ニューラル代表取締役CEOの夫馬(ふま)賢治さん。夫馬さんの関心は、政府のあり方や今後の農業などにも幅広く及んでいきます。前編に続き、後編ではそれぞれのテーマについてお話をうかがいながら、未来のために私たちは何をするべきなのか、考えていきます。

「ニュー資本主義」の時代に政府がするべきこと

DOWELL編集部: 「ニュー資本主義」を進めていくうえでは、企業だけではなく、国や国際機関による取組みも必要だと思います。2015年のパリ協定や、国連によるSDGsの採択は、「ニュー資本主義」ではどのような位置づけになりますか?

夫馬さん: 自分の実感としては、パリ協定もSDGsの採択もあとから来たものだというのが正直なところです。先にもお話しましたが、2010年から2012年には、欧米のグローバル企業ではすでにこのような流れになっていたので、2015年になって、「ああ、国連もついにやる気出したんだな」というのが私の感じたことです(笑)。

DOWELL編集部: 国際的な組織よりも民間企業のほうが先を行っているということですね。

夫馬さん: 実はパリ協定ができた裏側では、たくさんの投資家や企業、NGOが連携して動いています。彼らはパリ協定を成立させるために、各国政府にパリ協定の採択を迫ったのです。「ニュー資本主義」を担う人々によって、パリ協定の採択はスムーズに進んだのだと思います。

DOWELL編集部: そう考えると、未来を担っていく主役は、国ではなく、「ニュー資本主義」の企業や投資家、そしてNGOということになるのでしょうか。

夫馬さん: 単純にそういうことではありません。政府にも果たすべき役割はしっかりあります。それは規制を作ることです。企業や投資家には、強制力のある規制を作ることはできません。投資家は株主として、企業にプレッシャーをかけることはできますが、規制という面では、法律を作ることができる政府のほうが、圧倒的に力があります。だから、パリ協定の採択を実現するために、投資家や企業、NGOが猛烈に各国政府に働きかけを行ったのです。

DOWELL編集部: 動きが悪い政府に対して、民間が積極的に働きかけるロビイングは昔から行われていますが、環境問題も同様の流れができているということには驚きました。

夫馬さん: この動きは日本にも来ています。今年(2020年)の2月には、運用資産総額が約4,000兆円になる投資家集団が、安倍首相に、日本の温室効果ガス排出削減目標の引き上げを求める書簡を送付しています。企業と投資家たちが、一生懸命、政府にプレッシャーをかけている。アメリカでもトランプ政権にものすごいプレッシャーをかけて、なんとか前に進めようとしているのが今の状況です。

テクノロジーと自然の力で食料問題を解決する

DOWELL編集部: 私たちの未来に向けて、大きな流れができていることがよくわかります。ところで、DOWELLが進めている「Do well by doing good.」は、「いいことをして世界と社会をよくしていこう」という活動です。そしてそのひとつとして、途上国の生産者が自立できる仕組みを「食のよいサイクル」ととらえ、その実現のためにさまざまな取組みを進めています。食料と農業は、地球規模で解決するべき課題だと考えていますが、夫馬さんのお考えをお聞かせください。

夫馬さん: 農業は、これから先、大きく変化していく必要があると思っています。世界規模では、これからますます人口が増えるので、食料を増産できる仕組みを整えなくてはいけません。

実は食料問題は、これ以上人口が増えたらもう対応できないというところまできています。それでも人は増え続ける。さらに、気候変動で面積当たりの収穫量が減ってしまうというシナリオまで提示されています。食料問題は、すでに切羽詰まった状態にあるのです。その解決のためには、AIの活用やオートメーション化を進めていくべきだと思います。

DOWELL編集部: すでに解決への道筋はあるのでしょうか。

夫馬さん: やらなくてはいけないことは面積当たりの生産量を上げること。そしてその方法のひとつが「プレシジョン(precision)農業」というものです。

これは日本では「精密農業」と言われていますが、一言でいえば、農場をきめ細かくデータ管理して、収穫量をあげる方法です。たとえば、農場を小さな単位に分割してそれぞれにセンサーをつけて、天候や土壌の変化を追っていく。そしてその変化に適した最良の肥料や水を与えることで、作物にとって最適な生育環境を作って収穫量を上げるのです。

さらにこのやり方を持続可能にするためには、土壌の質を維持する必要があります。農薬や肥料を大量にまいたり、焼き畑農業を続けることは、結果的に土壌を疲弊させることになります。そこで注目されているのが「リジェネラティブ(regenerative)農業」というものです。これは日本語にすれば「再生可能な有機農業」というもので、簡単にいうと、できるだけ自然環境を真似て、健康な土壌を維持していくという農法です。そもそもの土壌を豊かなものにするので、長期的には収穫量の向上に寄与すると考えられています。「プレシジョン農業」は最先端のテクノロジーを駆使した農法であり、「リジェネラティブ農業」はできるだけ自然に近い環境で作物や動物を育てるという農法ですが、農業に関する課題を解決するために、この二つは融合していくと思っています。

DOWELL編集部: テクノロジーを使って、最適な自然環境を維持するというイメージでしょうか。まさに新しい農業の形だと感じます。

夫馬さん: 効果のある「リジェネラティブ農業」のためには、単純に自然の再生力にまかせるだけでは、時間もかかるし限界もあります。さらに気候変動により、自然状態そのものも変化してしまいます。そこでセンサーでデータを収集し、人の叡智を加えながら農場の状態の調整を行っていくことが必要になるでしょう。その代わり、使うものは化学的なものではなく、自然に適したものにするべきです。たとえば農薬をまくのではなく、害虫を退治する虫を活用する、などの方法です。

「プレシジョン農業」と「リジェネラティブ農業」を融合させていくことが単位面積あたりの収穫量を増やすことになるという考えは世界で広まりつつあり、農作物のグローバル企業は、すでにその方向に進んでいます。

自分たちが未来のためにするべきこと

DOWELL編集部: 今お話いただいた新しい農業の形は、DOWELLが目指す「食のよいサイクル」の実現にも通じるものがあると感じました。さて、そのDOWELLマガジンの今月のテーマは「僕たちの未来のために。」です。今まで、企業や投資家を主体とした、大きな時代の流れについてお話をうかがってきましたが、では、私たち個人は、未来のために、「Do well by doing good.」の観点からどのようなアクションを起こすべきだと思われますか?

夫馬さん: まず「知ること」と「見ること」です。本やインターネットの情報などで世界の動きに接して「今まではこれからとは違うんだ」ということを知ってほしいと思います。特に若い人たちにとっては、本当に今はチャンスなんです。未来が激変していくということは、逆の見方をすれば「年の功」が通用しない、古い経験則だけではまうまくいかない世界になるということです。若い人たちが新しい情報や知識を吸収してしっかりと学んで、成果を出していくということが今後増えてくると思います。そのためにも、課題に関するインプットをしたら「こうしたらこの課題は解決できるんじゃないか」というイメージを常に持っていてほしいです。

DOWELL編集部: 「知ること」と「見ること」。いい情報のインプットが大切ということはよく理解できます。では、アウトプットの点ではいかがでしょう。

夫馬さん: いろいろな知見を得て、何か活動を始めたいと考える方にお伝えしたいことは「日常生活の中で動いてほしい」ということです。

今の社会を作り上げているのは、私たちの仕事です。そうであれば、社会をよくしていこうと思ったら、週末や夜中になにか別のことを頑張るという方法よりも、やはり毎日大量に時間を費やしている仕事の中で社会を変える方法を追求していかなければいけない。会社の仕事や事業を長期的なスパンでとらえ、起こりうる変化にどのような布石を打っていくべきかを考えながら、日々の仕事に取組んでほしいと思います。それが日常でできる「ESG思考」です。そして、今の仕事や事業の方向を「ニュー資本主義」に向けていってほしい。その積み重ねが、会社、ひいては社会の変化につながります。環境や社会を変えるためには、特別な新しいことを始める必要はありません。

自分の仕事や日々の営みの中で、変化に向けた取組みを進めてほしい。それが、私たちができる「Do well by doing good.」だと思います。

(前編)を読む>>>

<プロフィール>

夫馬賢治

株式会社ニューラルCEO。サステナビリティ経営・ESG投資コンサルタント。ニュースサイト「Sustainable Japan」編集長。ハーバード大学大学院リベラルアーツ(サステナビリティ専攻)修士。サンダーバード・グローバル経営大学院MBA。東京大学教養学部(国際関係論専攻)卒。環境省ESGファイナンス・アワード選定委員や国際会議での有識者委員を歴任。サステナビリティ観点での経営戦略、IR、リスクマネジメント、マーケティング、ブランディング、R&D戦略等の依頼を、大手上場企業や機関投資家、広告代理店、国際NGOから幅広く受けている。財団や国際NGOの理事や評議員も務める。CNN、NHK、日本テレビ等への出演や、フィナンシャル・タイムズ、エコノミスト、日本経済新聞への取材対応、国内・海外での講演も多数。著書に『ESG思考』(講談社+α新書)、『データでわかる2030年地球のすがた』(日経プレミアシリーズ新書、近刊)、『いちばんやさしいSDGs入門』(宝島社、共著)。

7月9日に新たに日本経済新聞出版社から『データでわかる 2030年 地球のすがた』(日経プレミアシリーズ)を出版。世界の経済界が直視している今後の環境・社会課題をデータを使って誰にでもわかるように解説。私達が知るべきリアルを描いています。

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